チラシの裏(メモ系)
1虚子渡仏日記引用、2翻訳について、3ガラパゴスゾウガメ
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これはクーシューという医者が日本に風土病の研究に来て、日本に俳諧という詩が有るということを齎し帰ったのが初めてである。今度クーシューという人にも会い、又、ヴォーカンス、スーザ等という老作家にも会ったが、クーシュー氏は十七字という事を伝えて、季題ということを伝えなかった。私は季題のことをそれ等の人に説いたが、今後果たしてどういう風に変化して行くか。
フランス、イギリス、ドイツの田舎に住んで居る人々であっても、煉瓦の壁によって固く外界との交渉を遮断され、たまたま窓を開けて外面を眺めたり、ドアを排して家の前に有る花園に出ることはあるにしても、彼等と自然界との交渉は稀薄である。殊にロンドン、ベルリン、パリ等に住って居る都人士は、僅に街路樹に四季の変遷を知るくらいである。クーシュー氏が俳句の十七字のみを伝えて季題を伝えなかったというのにも相当の理由は有る。
併しながら一方からいえば、それ等の人々は既に数百年来自然と隔絶すべく生活に馴らされ来たったものである。私達、自然の間に哺まれ、自然と共に生長して来た者の目から見ると、其生活は不具であり、不自然である。先づそれ等詩人に四季の変遷を教え、軈て彼等国民の上にも及ぼすことは俳句の徳ともいうべきものか。